千葉豪雨で使える「未払賃金立替払制度」の手続簡略化とは?被災した企業・労働者が知っておきたい実務ポイント

千葉豪雨で使える「未払賃金立替払制度」の手続簡略化とは?被災した企業・労働者が知っておきたい実務ポイント

 

このたびの千葉県を中心とする豪雨災害により、お亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、被災されたすべての皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
被害に遭われた企業・従業員の方々が、一日も早く安心して働ける環境を取り戻せるよう、本記事が少しでもお役に立てば幸いです。

2026年8月の千葉豪雨を受けて、厚生労働省は被災地域における未払賃金立替払制度の申請手続を簡略化する取り扱いを公表しました。
豪雨によって事業活動が止まり、賃金の支払いが難しくなっている企業や、退職を余儀なくされた労働者がいる中で、通常より柔軟に手続を進められるようにするための措置です。

労務担当者や経営者の方にとっては、「うちも対象になるのか」「従業員にどう案内すればよいのか」といった疑問が出やすいテーマです。ここでは制度の基本と、今回の簡略化のポイントを整理してお伝えします。

そもそも「未払賃金立替払制度」とは

未払賃金立替払制度は、企業が倒産などにより賃金を支払えないまま労働者が退職した場合に、国が未払賃金の一部を立て替えて支払う制度です。
運営は独立行政法人労働者健康安全機構が行っており、労働基準監督署が窓口となって手続を進めます。

主なポイントは次のとおりです。

  • 対象は、企業の倒産等により退職し、賃金が支払われていない労働者
  • 立替払の額は、原則として未払賃金額の8割
  • 立替払の対象となる賃金には、退職前6か月分の給料および退職手当が含まれる(賞与は原則対象外)
  • 年齢に応じた上限額が定められている

「倒産」といっても、法的倒産(破産・民事再生など)だけでなく、中小企業については労働基準監督署長が事実上の倒産と認定した場合も対象になります。この事実上の倒産認定が、災害時には特に重要になります。

千葉豪雨を受けた「手続の簡略化」の位置づけ

今回の千葉豪雨に関する取り扱いは、通常の制度の枠組みを維持したまま、被災という特殊事情を考慮して、事実上の倒産認定や申請書類の手続を柔軟にするというものです。
制度そのものが新しくなったわけではなく、あくまで運用面での配慮として整理しておくと理解しやすくなります。

被災地域では、次のような事情が現実に起きています。

  • 事務所や店舗が浸水し、事業再開の見通しが立たない
  • 帳簿・タイムカード・給与台帳などの書類が失われた
  • 経理担当者が被災し、通常の手続を進められない
  • 事業主自身が避難中で連絡が取りづらい

こうした状況で「通常どおりの書類を揃えてください」と求めるのは現実的ではありません。
そのため、被災地域の労働基準監督署では、事実関係の確認方法や必要書類の扱いを実情に応じて柔軟に判断する運用が取られています。

経営者側が押さえておきたい視点

「うちも被害を受けたが、なんとか事業は続けたい」という経営者の方にとって、まず知っておきたいのは次の点です。

1. 立替払制度は「倒産した企業」だけの話ではない

法的な倒産手続をしていなくても、事業活動が停止し、再開の見込みがなく、賃金支払能力がないと認められる場合、中小企業については事実上の倒産として認定される可能性があります。
被災による事業停止が長期化している場合、退職した従業員から立替払の申請が出る可能性があるため、事業主にも一定の協力が求められる場面があります。

2. 書類が失われていても諦めない

タイムカードや賃金台帳が水損・紛失していても、それだけで手続ができなくなるわけではありません。
被災時には、通帳の入金履歴、給与明細の控え、メール、シフト表など、代替資料での確認が行われることがあります。手元に残っている資料は、たとえ断片的でも保管しておくことが大切です。

3. 退職者への案内は早めに

事業継続が難しく退職者が出る場合、制度の存在を知らせるだけでも、労働者にとって大きな安心材料になります。会社として立替払制度の概要と相談先(労働基準監督署)を伝えるだけでも意味があります。

労務担当者が実務で意識したいポイント

労務担当者の立場では、次のような対応を意識しておくと現場が回りやすくなります。

  • 退職日、未払賃金の対象期間、金額を可能な範囲で整理しておく
  • 退職者本人の連絡先を確保しておく
  • 給与計算データのバックアップの所在を確認する
  • 労働基準監督署とのやり取りの窓口を一本化する

特に重要なのは、「未払賃金の額」を客観的に説明できる資料の準備です。
被災で書類が失われた場合でも、給与計算ソフトのクラウドデータ、銀行振込の履歴、就業規則、労働条件通知書などが手がかりになります。

労働者側が知っておきたいポイント

一方で、退職した労働者側にも押さえておきたい点があります。

  • 立替払の対象は、退職日の6か月前から立替払請求日の前日までの未払賃金
  • 賞与は対象外
  • 立替額は未払賃金の8割であり、全額ではない
  • 年齢による上限額があるため、高額な未払でも一定額で頭打ちになる
  • 請求できる期間には期限があるため、早めの相談が重要

被災による混乱で、「今は手続どころではない」と感じる方も多いのが実情です。しかし、期限を過ぎると請求できなくなるため、まずは最寄りの労働基準監督署に相談することが第一歩になります。

会社として今できる備え

災害はいつ起きるかわかりません。今回の千葉豪雨の対応は、他の地域の企業にとっても参考になります。
平時からできる備えとしては、次のようなものが挙げられます。

給与関連データのクラウド化・二重化

賃金台帳、タイムカード、労働条件通知書などは、被災で物理的に失われる可能性があります。クラウド保管や、離れた場所へのバックアップを検討する価値があります。

従業員連絡網の整備

被災時には、従業員本人と連絡が取れなくなることがあります。緊急連絡先を含めた連絡網の整備は、労務管理の基礎になります。

就業規則・退職手続の確認

災害時の休業、賃金の取り扱い、退職手続について、就業規則で明確にしておくことは、後のトラブル防止にもつながります。

資金繰りの早期相談

「賃金が払えないかもしれない」と感じた段階で、金融機関や公的支援窓口へ相談することも重要です。倒産を回避できれば、そもそも立替払制度に頼らずに済みます。

まとめ

千葉豪雨を受けた未払賃金立替払制度の手続簡略化は、被災という特殊な状況において、労働者の生活を守るための現実的な措置です。押さえておきたいポイントを整理すると次のようになります。

  • 制度自体は従来の未払賃金立替払制度で、運用面が柔軟化されている
  • 対象は、倒産等により賃金未払のまま退職した労働者
  • 中小企業では、労働基準監督署長による事実上の倒産認定が鍵になる
  • 立替額は未払賃金の8割、年齢に応じた上限あり
  • 書類が失われていても、代替資料で確認できる場合がある
  • 労働者側には請求期限があるため、早めの相談が重要

被災された企業・労働者の方は、まずは労働基準監督署に状況を伝えることから始めるのが確実です。厚生労働省のホームページでも、最新の取り扱いや相談窓口の案内が公表されていますので、必要に応じて確認してみてください。

参照した公開情報
・厚生労働省「未払賃金立替払制度」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/16849_00003.html
・独立行政法人労働者健康安全機構「未払賃金の立替払事業」