2026年10月から変わる「パート・有期雇用労働者の労働条件通知書」─新しい明示義務と実務対応のポイント

2026年(令和8年)10月1日から、パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇い入れる際に交付する労働条件通知書の記載事項が追加されます。パートタイム・有期雇用労働法の施行規則等が改正され、雇入れ時の明示事項に新たな項目が加わるためです。

「2024年4月にも労働条件明示のルールが変わったばかりなのに、また変更?」と感じる方も多いかもしれません。しかし今回の改正は、いわゆる同一労働同一賃金の実効性をさらに高めるための重要な見直しです。義務違反には過料の定めもあるため、企業の労務担当者や経営者の方は、施行日までに社内の様式や運用の見直しを進めておく必要があります。

この記事では、2026年10月から何がどう変わるのか、そして実務でどのように対応すればよいのかを、丁寧に整理していきます。

1. 改正のポイント──追加される明示事項は何か

今回の改正で、パートタイム労働者・有期雇用労働者を雇い入れる際、労働条件通知書などの書面(労働者が希望した場合はFAX・電子メール等も可)で明示すべき事項に、次の項目が追加されます。

  • 通常の労働者(正社員)との待遇の相違の内容および理由等について、事業主に説明を求めることができる旨

少し難しく感じるかもしれませんが、平たく言えば「あなたと正社員との間に待遇差がある場合、その内容や理由を会社に質問できますよ」ということを、雇い入れ時にあらかじめ書面で知らせなさい、というルールです。

ここで「待遇」とは、基本給や賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練など、労働条件全般を指します。「通常の労働者」とは、いわゆる正社員(フルタイム・無期雇用の労働者)を指すのが一般的です。

2. これまでのルールと何が違うのか

実は「待遇差の内容・理由について説明を求められた場合、事業主は説明しなければならない」という説明義務そのものは、すでにパートタイム・有期雇用労働法第14条に規定されています。パートや有期雇用の労働者から「なぜ自分には賞与がないのですか」と聞かれれば、事業主は答える義務があるわけです。

しかし現実には、

  • 労働者本人が「説明を求める権利がある」と知らない
  • 会社の誰に相談すればよいかわからない
  • 言い出しにくい雰囲気がある

といった理由で、この制度が十分に活用されていないという実態がありました。

そこで今回の改正では、「求めることができる」という権利があること自体を、会社側から雇入れ時に明示することが義務化されるのです。労働者が制度を知り、実際に活用できるようにすることが狙いです。

3. 改正の背景──同一労働同一賃金の徹底

この改正の根底には、2020年4月(中小企業は2021年4月)から施行された同一労働同一賃金の考え方があります。

同一労働同一賃金とは、正社員と非正規雇用労働者(パート・有期・派遣)との間の不合理な待遇差を禁止する仕組みです。ただし、待遇差がすべて禁止されているわけではなく、職務の内容や責任の程度、配置転換の範囲などに照らして「合理的な理由」があれば認められます。

つまりカギとなるのは、

  • 待遇差の内容(何がどう違うのか)
  • 待遇差の理由(なぜ違うのか)

を会社が説明できる状態にあるかどうか、という点です。今回の改正は、この「説明責任」を企業に強く意識させ、あわせて労働者側にも「聞いてよい権利」を明示的に伝えることで、制度全体の実効性を高めようとするものと言えます。

同時期に同一労働同一賃金ガイドラインも見直され、待遇差に関する考え方や具体例がより明確化される見込みです。

4. 対象となる労働者と場面

改正の適用対象は、以下のとおりです。

  • 対象労働者:パートタイム労働者(短時間労働者)および有期雇用労働者
  • 明示のタイミング:雇い入れ時(新規採用時)
  • 明示方法:原則として書面の交付。労働者が希望した場合はFAXや電子メール、SNSメッセージ等でも可(出力して書面化できるものに限る)

なお、契約更新のタイミングでも改めて明示が必要になると考えられます。有期契約の更新は「新たな労働契約の締結」と実質的に同じ扱いになるためです。既存のパート・有期社員についても、更新時に順次対応が必要となる点に注意してください。

5. 実務対応のポイント

施行日までに、企業として準備すべきことを整理します。

(1) 労働条件通知書の様式を改訂する

厚生労働省が公表しているモデル様式にも、今回の改正に対応した記載欄が追加される見込みです。自社で独自の様式を使っている場合は、以下の要素を追加してください。

  • 「正社員との待遇差の内容・理由について説明を求めることができます」旨の文言
  • 説明を求める場合の問い合わせ窓口(部署名・担当者・連絡先など)

(2) 説明できる体制を整備する

「求めることができる」旨を明示するということは、実際に求められた場合にきちんと説明できる準備が必要になるということです。

  • 正社員とパート・有期社員の待遇一覧表を整理する
  • 待遇ごとに「なぜ差があるのか」の理由(職務の内容、責任、人材活用の仕組み等)を文書化する
  • 説明を担当する責任者・窓口を決めておく

いざ質問されたときに慌てないよう、事前に「説明の型」を作っておくことをおすすめします。

(3) 就業規則・賃金規程との整合性を確認する

説明を求められたときに、就業規則や賃金規程との説明が食い違うと大きなトラブルになります。この機会に、

  • 正社員用とパート・有期用の就業規則が整理されているか
  • 手当や賞与の支給基準が明文化されているか
  • 過去の運用と規程内容にズレがないか

を点検しておきましょう。

(4) 現場管理職への周知

雇入れ時の説明を担うのは、実際には現場の管理職や採用担当者であることが多いはずです。制度改正の趣旨と、質問された際の初期対応(一次受け→担当部署へエスカレーション、など)を共有しておくことが重要です。

6. 違反した場合のリスク

明示義務に違反した場合、パートタイム・有期雇用労働法第31条に基づき、10万円以下の過料が科される可能性があります。金額そのものは大きくないかもしれませんが、行政指導の対象となったり、企業名の公表につながったりする可能性もあります。

また、待遇差について合理的な説明ができない状態が続くと、未払賃金請求や損害賠償請求といった民事上の紛争リスクにも直結します。近年は同一労働同一賃金をめぐる裁判例も蓄積されており、労働者側が待遇差について具体的に説明を求めるハードルは確実に下がっています。

7. 今から取り組んでおきたい3つのステップ

施行までまだ時間があるように見えますが、規程や様式の見直しには相応の時間がかかります。次の3ステップで進めることをおすすめします。

  1. 現状把握:正社員とパート・有期社員の待遇差を洗い出し、一覧化する
  2. 合理性の検証:待遇差ごとに、職務内容・責任・配置転換範囲等に照らして合理的に説明できるかを確認する
  3. 文書整備:労働条件通知書の改訂、就業規則の見直し、説明用資料の作成、窓口設置

特に「2」は時間がかかる作業です。合理的な説明が難しい待遇差が見つかった場合、制度そのものの見直しが必要になるからです。早めに着手することで、施行日までに慌てず対応できます。

8. まとめ

2026年10月からの改正は、労働条件通知書に一項目を追加するだけの単純な話に見えて、実は同一労働同一賃金の実効性を企業に問い直すものです。書式を書き換えて終わり、ではなく、

  • 待遇差の実態把握
  • 合理性の検証
  • 説明できる体制の整備

まで含めて対応することが、真の意味での「改正対応」となります。

パートや有期雇用の労働者は、多くの企業にとって重要な戦力です。待遇の説明を通じて、働く一人ひとりに納得感を持ってもらうことは、定着率の向上や採用力の強化にもつながります。今回の改正を「面倒な追加義務」と捉えるのではなく、自社の人事制度をブラッシュアップする好機として活用していきましょう。