外国人材の採用が拡大するなか、労務担当者の方から「外国人従業員の社会保険の資格取得届を提出したら、カナ氏名の表記違いで返戻されてしまった」というお困りの声を多くお聞きします。実務では、パスポートや在留カードのアルファベット表記と、給与システムに登録しているカタカナ表記の微妙な違いによる差戻しが、大きな事務負担になっていました。
こうした課題を受け、厚生労働省年金局事業管理課から日本年金機構あてに、令和8年8月3日付で「日本国籍を有しない厚生年金保険被保険者の資格取得等に係る事務の取扱いについて」(年管管発0803第3号)が発出されました。令和8年10月1日から、外国人被保険者の本人確認事務が一部緩和されます。この記事では、労務担当者・経営者の皆さまが押さえておくべきポイントを、わかりやすく整理してお伝えします。
1. これまでの取扱い ― なぜ返戻が多かったのか
外国人従業員について、厚生年金保険の資格取得届(新規加入の届出)を提出する際、日本年金機構では次の「5情報」で本人確認を行っています。
- 漢字氏名(漢字文化圏の方に限る)
- カナ氏名
- 生年月日
- 性別
- 住所
日本年金機構は、住民基本台帳ネットワークを運営する「J-LIS(地方公共団体情報システム機構)」に照会を行い、届出内容と住民票情報を突合します。ここで5情報のいずれか一つでも一致しなければ、事業主に確認・返戻となる運用でした。
特にトラブルが多かったのがカナ氏名の表記ゆれです。たとえば以下のようなケースです。
- 「JOHN SMITH」を「ジョン スミス」と登録したが、住民票上は「ジョン・スミス」だった
- 「NGUYEN THI HOA」を「グエン ティ ホア」と登録したが、住民票では「グエン ティ ホァ」だった
- ミドルネームを省略/記載した/しなかった
たった1文字の違いでも返戻となり、修正・再提出のやり取りに時間を要していたのです。
2. 令和8年10月1日からの新しい取扱い
今回の見直しの目的は、事業主と日本年金機構双方の事務効率化です。具体的には、J-LIS照会の結果「カナ氏名のみが一致しない」場合について、次のとおり運用が変わります。
① 住基ネットに情報がある外国人の場合(住民票がある方)
原則として、日本国内に住所があり住民票のある外国人従業員は、J-LISから機構が本人確認情報の提供を受けられる対象者です。この方については
- 資格取得届の提出時に、必要に応じて「アルファベット表記の氏名が確認できる書類」(在留カード、パスポート等)を添付できるようになります
- J-LIS照会でカナ氏名だけが不一致でも、アルファベット表記の氏名が一致すれば本人確認済みとして処理されます
- この場合、届出のカナ氏名で既登録のカナ氏名が上書き更新されます
なお、アルファベット氏名を確認できる書類の添付は任意です。添付がない場合は従来どおりの取扱いとなります。
② 住基ネットに情報がない外国人の場合(短期滞在等で住民登録がない方)
このケースでは、従来から資格取得届に「ローマ字氏名届」を添付することが必要です。今後は
- J-LIS照会でカナ氏名のみが不一致でも、ローマ字氏名届のアルファベット表記と一致すれば本人確認済みとして処理されます
- 届出のカナ氏名がそのまま原簿に登録されます
③ 健康保険の被扶養者(異動)届でも同様
外国人従業員のご家族を健康保険の扶養に入れる際の「健康保険被扶養者(異動)届」についても、同じ取扱いになります。カナ氏名のみ不一致でも、アルファベット氏名が一致すれば扶養認定処理が進みます。
④ 電子申請(e-Gov等)でも同じ扱い
紙申請・電子申請を問わず、同じ運用となります。
3. 労務担当者が今から準備しておきたい実務ポイント
新しい取扱いは自動的に負担が減るものですが、返戻をより確実に防ぐためには、企業側でも次のような準備をしておくと安心です。
① 外国人従業員の氏名情報を「在留カード基準」で管理する
在留カードに記載されているアルファベット表記は、日本の行政機関における外国人氏名の基本情報です。入社時に在留カードのコピーを取得し、システム上の氏名項目に「アルファベット表記」も併記して保管しておきましょう。
② カナ氏名は住民票(住民票記載事項証明書)で確認する
住民票のカナ氏名(フリガナ)は、J-LIS照会の基準となる情報です。可能であれば入社時に住民票の写しを提出してもらい、そのカナ表記に合わせて登録すると、そもそも不一致が起こりにくくなります。
③ 資格取得届の提出時に添付書類の準備を検討する
10月1日以降は、資格取得届に在留カードやパスポート等のアルファベット氏名が確認できる書類の添付が任意で可能になります。過去にカナ氏名の不一致で返戻された経験がある企業や、氏名が長く表記ゆれが起きやすい国籍の方については、あらかじめ添付する運用にしておくと返戻リスクを減らせます。
④ 給与計算・人事システムの氏名項目の見直し
「氏名(漢字)」「氏名(カナ)」の2項目しかないシステムでは、アルファベット表記を管理できません。「アルファベット氏名(在留カード表記)」の項目追加を検討しましょう。
⑤ 社内の届出フロー・チェックリストを更新する
外国人従業員の入社時対応マニュアルに、以下を追記しておくとスムーズです。
- 在留カードの写し取得(表・裏)
- 住民票のフリガナ確認
- アルファベット氏名を人事システムに登録
- 資格取得届提出時にアルファベット氏名確認書類の添付要否を判断
4. 見落としがちな注意点
最後に、今回の改正で誤解されやすいポイントを整理します。
- カナ氏名の届出そのものが不要になるわけではありません。届出書には引き続きカナ氏名を記入する必要があります
- カナ氏名以外の情報(漢字氏名、生年月日、性別、住所)が一致しない場合は、従来どおり返戻となります
- 住民票がない外国人(短期滞在者等)についてのローマ字氏名届の添付は引き続き必須です
- アルファベット氏名確認書類の添付は「任意」であって「義務」ではありませんが、添付がなければ従前どおりの取扱いになるため、返戻リスクは残ります
5. まとめ
令和8年10月1日から始まる新しい取扱いは、外国人材を雇用する企業にとってカナ氏名の表記ゆれによる返戻リスクを大きく下げる、実務上ありがたい改正です。一方で、恩恵を最大限に受けるためには、入社時の情報収集、システムの氏名項目、届出フローを事前に整えておくことが欠かせません。
外国人雇用における社会保険手続きは、在留資格や社会保障協定など、確認すべき論点が多岐にわたります。今回の改正を機に、自社の外国人従業員の情報管理と届出フローを一度棚卸ししておくことをおすすめします。
(本記事は、厚生労働省年金局事業管理課「日本国籍を有しない厚生年金保険被保険者の資格取得等に係る事務の取扱いについて」年管管発0803第3号(令和8年8月3日付)に基づき執筆しています。)
