【印鑑不要】押印・署名省略の取り扱いのまとめ【社会保険・労働基準関係】

新型コロナウイルス禍で官民ともに印鑑(ハンコ)不要の論調が大きくなってきています。

電子申請の普及がなかなか進まない状況で電子証明書を使用しての申請・届出も社会保険労務士や大企業を除いて、法令上義務化されていない中小企業においては、まだハードルが高いようです。

社会保険や労働基準法の管轄官庁である厚生労働省もコロナの感染防止等を理由として取扱いを見直し、文書を発出していますのでまとめます。
ただ、その前にそもそも印鑑の効力について、考えてみます。

署名捺印?記名押印?

 

書類の説明書きに「署名捺印」、「記名押印」の組み合わせで書かれたものをよく見ますがその違いはどういったものなのでしょうか。

まず、署名とは、本人が氏名を直筆で手書き(サイン)することです。
筆跡は人により、違うため、契約などの証拠能力としては高くなります。

記名とは、直筆以外の方法で氏名を記載することです。
PCで入力したものを印字したり、ゴム印を押したり、他人が書いたものなどが該当します。

記名に加えて押印することによって、署名と同様の効果を持ちます。
(商法第32条 この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。)

押印と捺印は、意味としてはほぼ同じで押印より捺印の方が少し重みがあるといったところでしょうか。

署名捺印、記名押印の法的な証拠能力としては、以下のようになります。

①署名捺印 > ②署名のみ > ③記名押印 > ④記名のみ

一番右の④記名のみでは、正式な効力が認められないことになっています。
また、③記名押印するより、②署名のみの方が証拠能力が高いということになっていて少し意外に感じる方もいらっしゃるかもしれません。実務上は、印鑑が必要ない署名をもっと使用してもよいでしょう。

通達まとめ

 

今回、少し専門的になりますが厚労省関係の印鑑の省略についての通達のリンクを以下に貼っておくので、興味のある方は見てみてください。

共通して、基本的には「当面の間」、書面で届け出る申請書、届出書等について、押印及び署名がなくても受け付けるということになっています。

◆新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた労働基準法等に基づく届出等の受付等に係る当面の対応について(8/3 厚労省保険局)
https://finexus.jp/wp-content/uploads/2020/10/新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点からの適用事業所等が書面で提出する届出の取扱いに係る緊急対応について.pdf

押印又は署名が必要である「特に慎重に届出の真正性を確認する必要があると考える届出等」の例として、下記をあげています。

・健康保険 厚生年金保険 適用事業所全喪届
・健康保険 厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届
・健康保険 厚生年金保険 適用事業所名称/所在地 変更(訂正)届
・健康保険 厚生年金保険 被保険者住所変更届
・健康保険 厚生年金 保険料等口座振替納付(変更)申出書
・傷病手当金又は出産手当金の申請における事業主証明

◆新型コロナウイルス感染症の感染防止等の観点から適用事業所が書面で提出する届出等における押印及び署名の取扱いについて(7/17 厚労省年金局)
https://finexus.jp/wp-content/uploads/2020/10/新型コロナウイルス感染症の感染防止等の観点から適用事業所が書面で提出する届出等における押印及び署名の取扱いについて.pdf

◆新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた労働基準法等に基づく届出等の受付等に係る当面の対応について(8/11 厚労省労働基準局長)
https://finexus.jp/wp-content/uploads/2020/10/新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた労働基準法等に基づく届出等の受付等に係る当面の対応について.pdf

ただし、「受付等の際、届出等を行った使用者等に対し、当該届出等については、感染症の影響を踏まえつつ、後日、押印又は署名を付した上で改めて届出等を行うよう依頼すること」とあるので、注意が必要です。

◆新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点からの各種手続きにおける押印及び署名の取扱い等について(9/1 厚労省労働基準局等)
https://finexus.jp/wp-content/uploads/2020/10/新型コロナウイルス感染症の感染防止の観点からの各種手続きにおける押印及び署名の取扱い等について.pdf

「当面の間、署名又は押印を必ずしも必要としない扱いとする手続」として、下記の手続きをあげています。

・雇用関係助成金に係る手続き
・働き方改革推進支援助成金に係る手続
・業務改善助成金に係る手続

 

◆協会けんぽへの届書等の取扱いについて(9/29 協会けんぽ)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g1/r2-9/2020092901/

 

≪11/17追記≫

令和2年11月11日に厚生労働大臣が労働政策審議会に諮問した「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令案要綱」について、労働政策審議会労働条件分科会で審議が行われた結果、「要綱については、おおむね妥当と考える」と答申が行われました。
よって、令和3年(2021年)4月1日に下記のように改正が行われる予定です。

■使用者が押印をする欄を削るとともに過半数代表者である旨を示すチェックボックスを設ける届書

・時間外・労働休日労働に関する協定届(36協定)
・一年単位の変形労働時間制に関する協定届
・一箇月単位の変形労働時間制に関する協定届 など

■使用者が押印をする欄を削る届出書

・解雇制限・解雇予告除外認定申請書
・企画業務型裁量労働制に関する報告  など

 

労働基準法だけでなく、社会保険も変更があるかもしれませんので、注目です。

あと、どうでもいいことかもしれませんが長男の小学校の通知表の印鑑(校長先生、担任の先生、保護者)も廃止されました・・・

 

≪12/28追記≫

年金手続きの押印が原則廃止となりました。
詳細は下記、記事をご覧ください。

【印鑑不要】年金手続きの押印を廃止へ【令和2年(2020年)12月25日より】

 

 

≪2021/1/2追記≫

36協定届、雇用調整助成金申請書も押印・署名が不要となりました。
詳細は下記、記事をご覧ください。

【押印不要・チェックボックス追加】雇用調整助成金の特例措置等の延長【令和3年(2021年)2月末まで】

【押印・署名廃止、チェックボックス新設】36協定届変更【2021年(令和3年)4月から】

 

 

≪2021/1/13追記≫

労災保険の請求書等の通達が発出されていますので、詳細はご確認ください。

◆労災保険における請求書等に係る押印等の見直しの留意点について
https://www.mhlw.go.jp/content/000716582.pdf

 

ひとつ注意点を記載しておくと押印欄のある旧様式も使用可能で押印欄を二重線で消さなくてもよいとのことですが様式第8号の「㊲災害の原因及び発生状況」については、下記のように記載事項が追加されています。

【改正前】
(あ)どのような場所で(い)どのような作業をしているときに(う)どのような物又は環境に(え)どのような不完全な又は有害な状態があって(お)どのような災害が発生したかを詳細に記入すること

 

【改正後】
(あ)どのような場所で(い)どのような作業をしているときに(う)どのような物又は環境に(え)どのような不完全な又は有害な状態があって(お)どのような災害が発生したか(か)⑦と初診日と災害発生日が同じ場合は当日所定労働時間内に通院したか、⑦と初診日が異なる場合はその理由を詳細に記入すること

 

請求書等は全面的に「印」、「訂正印」欄が削除されています。

◆労災保険給付関係請求書等ダウンロード
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/03.html

 

 

≪2021/2/8追記≫

「雇用保険に関する業務取扱要領」が令和3年2月1日以降版に更新されています。

◆雇用保険に関する業務取扱要領(令和3年2月1日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/data/toriatsukai_youryou.html

「雇用保険に関する業務取扱要領」は雇用保険の事務処理上の細かいルールが記載されています。
その中で例えば、資格取得届の事業主の氏名欄から「印」がなくなっています。そして、裏面の「注意」には、「記名押印又は署名のいずれかにより記載する」から「記載する」に変更となっています。
ただし、「雇用保険適用事業所設置届」表面の事業主の氏名欄から「印」はなくなりましたが裏面(下記)の「登録印」はそのまま残っています。ご注意ください。
また、ハローワークに問い合わせたところ、離職票の捨印(何時挿入など)は、必要だが取得届などの訂正印は不要とのことでしたが管轄のハローワークに念のため、ご確認ください。

≪2021/2/15追記≫

2/13に協会けんぽのホームページが下記のように更新されました。

令和2年12月25日に「押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省関係省令の一部を改正する省令」(令和2年厚生労働省令第208号)及び「押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省令関係告示」(令和2年厚生労働省告示第397号)が公布、施行されたことにより、健康保険法施行規則の一部が改正されました。
また、厚生労働省保険局保険課より「保険者が定める届出様式における押印の廃止について(要請)」(保保発1225第9号)が発出されました。
これを受け、協会けんぽに提出する各種申請書への押印は、その一部を除き不要となりました。各種申請書ごとの押印の要否については、別表をご参照ください。
なお、当該取扱いの開始に伴い、先に本ホームページにて令和2年9月29日付「協会けんぽへの届書等の取扱いについて」によりお知らせしていた取扱いについては、令和3年1月28日をもって廃止しました。

◆協会けんぽへの各種申請書押印廃止の取扱いについて
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g1/r3-2/2021021301/
◆押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省関係省令の一部を改正する省令等の交付等について(保発1225第8号)
◆保険者が定める届出様式における押印の廃止について(要請)(保保発1225第9号)
上記、別表のとおり、下記の市区町村長欄は、押印は廃止されず、継続されますので、ご注意ください。
・高額療養費支給申請書
・限度額適用・標準負担額認定申請書
・出産育児一時金内払依頼書・差額申請書
・出産育児一時金支給申請書

 

 

 

≪2021/5/4追記≫

国税庁が源泉所得税の改正についてのページを更新しています。

◆源泉所得税の改正のあらまし
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/mynumberinfo/list.htm

源泉所得税関連の令和3年度の改正がまとまっています。

1.税務関係書類における押印義務の見直し

 

2.給与等の支払を受ける者が給与等の支払者に対し電磁的方法で申告書の記載事項を提供する場合の税務署長の承認の廃止

1については、「税務署長等に提出する源泉所得税関係書類について、押印を要しないこととする。」となりました。

 

ただし、下記は除きます。

注意(例外)

(1)  担保提供関係書類及び物納手続関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類(具体的には別紙1をご覧ください。)
(2)  相続税及び贈与税の特例における添付書類のうち財産の分割の協議に関する書類(具体的には別紙2をご覧ください。)

また、振替依頼書やダイレクト納付利用届出書については、金融機関からの求めに応じ、引き続き金融機関届出印(銀行印)の押印が必要となりますので、注意しましょう。(e-Taxを利用して提出される場合は押印が不要です。)。

詳細は下記をご確認ください。

◆税務署窓口における押印の取扱いについて
https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/index.htm

 

2については、下記の給与等の支払を受ける者が給与等の支払者に対し電磁的方法で申告書の記載事項を提供する場合、税務署長の承認が必要でしたが廃止となりました。(令和3年4月から)

⑴ 給与所得者の扶養控除等申告書
⑵ 従たる給与についての扶養控除等申告書
⑶ 給与所得者の配偶者控除等申告書
⑷ 給与所得者の基礎控除申告書
⑸ 給与所得者の保険料控除申告書
⑹ 給与所得者の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除申告書
⑺ 所得金額調整控除申告書
⑻ 退職所得の受給に関する申告書
⑼ 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書

押印欄のない申告書は国税庁のホームページで更新されています。
(年末調整関連の申告書は未更新)

◆[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_01.htm

 

 

≪2021/6/15追記≫

下記の記事を追加しました。


参考
押印廃止後も引き続き押印が必要な書類のまとめ【社会保険・労働法】社会保険労務士事務所ファインネクサス