10/11に開かれた第140回労働政策審議会安全衛生分科会で提出された「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案」が話題になっています。
その内容とは、規則に「便所の設置基準」があり、現行は以下のように規定されています。
【現行】
事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。
・男性用と女性用に区別すること。
・男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者六十人以内ごとに一個以上とすること。
・男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者三十人以内ごとに一個以上とすること。
・女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者二十人以内ごとに一個以上とすること。
トイレの数が就業者数に応じて、明確に決まっているという・・・
今回、そこは論点ではなくて、男性用と女性用にもともと区別することになっているところに下記の改正案が出てきました。
【改正案】
(1)基本方針
男性用と女性用に区別して設けることが原則であること。
(2)少人数の事務所における例外
同時に就業する労働者が常時十人以内である場合は、現行で求めている、便所を男性用と女性用に区別することの例外として、独立個室型の便所を設けることで足りることとすること。
(3)男性用と女性用に区別した便所を各々設置した上で付加的に設ける便所の取扱い
男性用と女性用に区別した便所を設置した上で、独立個室型の便所を設置する場合は、男性用大便所の便房、男性用小便所及び女性用便所の便房をそれぞれ一定程度設置したもの※として取り扱うことができるものとする。
※男性用大便所又は女性用便所の便房の数若しくは男性用小便所の箇所数を算定する際に基準とする当該事業場における同時に就業する労働者の数について、独立個室型の便所1個につき男女それぞれ十人ずつ減ずることができることとすること。
つまり、
【原則】男性用、女性用それぞれ区別して設ける
【例外】常時10人以内の事務所は、独立個室型の便所を1つ設ければよい
ということになります。
この改正については、パブリックコメントで意見募集を行っていて、1542件(パブリックコメントでは異例の件数)の意見があり、「女性専用トイレを廃止すべきではない」等の意見が多数を占め、主な意見が公表されています。
【パブリックコメントに寄せられた主な意見 ●反対意見 / □中立 / ○賛成意見】
● 小規模な事業所ほど女性が多く働いており、マイナス方向に影響を受ける人が多く無視できないため、小規模事業場であっても、トイレは男女別に設置することを原則とすべき。
● 例外に該当する事業場であっても、労働者数の変動によって男女別の設置義務が生ずることもあるが、後から改修することは困難であるため、女性専用トイレは必ず設置しておくべき。
● 男女共用トイレ自体認めるべきでない(性暴力、盗撮、サニタリーボックスの管理、臭い等による精神的苦痛、 清潔保持の観点)。
● 既存のトイレを共用トイレにするのであれば、女性用トイレの数は減らすべきではなく、男性用トイレの全部又は一部を共用化すべき。
● 共用トイレの場合、場所としてどちらの性別が入ってもおかしくないため、犯罪の抑止効果が少なく、また、押し入られた時に逃げられないため、女性用トイレは必ず設置すべき。
□ 女性の雇用促進、性的少数者への配慮、小規模事業者の負担軽減など、多方面からのメリット・デメリットを踏まえた議論が必要。
○ 従業員数名で事業を行う零細企業や、労働者数は一定程度いるが、フルリモートワークのため常時就業する人数が少ない職場にとっては、男女別にトイレを設置し、清潔に維持するのは困難。男女別でない柔軟な運用を認めることは労働者の安全衛生に資する。
パブリックコメントだけでなく、YahooニュースのコメントやTwitterも拝見しましたが例外規定を設ける際の女性の反対意見が圧倒的多数でした。確かに男性では、気づきにくい点の指摘もあり、広く意見を募る重要性をあらためて感じました。
そこで分科会としては、前回分科会及びパブリックコメントにて挙げられた懸念事項を踏まえ、以下の事項について、施行通達により明示することとしました。
【施行通達により明示する事項】
懸念事項①
小規模な作業場でも便所は男女別に設置するべき
・ 作業場の規模にかかわらず、便所は「男女別」が原則である旨
・ 例外規定を設けた趣旨(マンションの1室など、構造上増設が困難な場合等)
・ 同趣旨に鑑みれば、既設の男女別便所の廃止や他の用途への転用は許容されるものではない旨
・ 作業場を新たに設置する場合(新たに建物を賃借する場合を含む。)においても、その後の労働者数変動の可能性を踏まえ、あらかじめ男女別の便所を確保しておくことが適当である旨
懸念事項②
性暴力等を目的に個室内に押し入られた時に逃げられない
・ 異常事態発生時の対応(防犯ブザーの設置、管理者による外側からの緊急解錠等)
懸念事項③
精神的苦痛が生じる
(盗撮のおそれ、サニタリーボックスの管理、清潔保持、臭い等)
・ 独立個室型便所が備えるべき要件(視覚的・聴覚的遮断によるプライバシーの確保、堅牢、施錠、手洗い設備の近接した場所への設置等)
・ 盗撮防止、サニタリーボックスの管理方法、消臭や清潔の保持など便所の使用や維持・管理に関するルール・マナー
※ 懸念事項②及び③は、「共用でない個室型便所」でも同様の問題が生じうるため、施行通達において上記と同様の対応が必要である旨を明記
今後、令和3年12月に公布、施行となる予定になっています。
懸念事項に対する明示がどこまで機能するかわかりません。
また、男女別の小規模事務所の物件が少ないのも事実です。
ただ、経営者(特に男性)には、こういった懸念があるという認識は常に持って頂きたいと感じる問題です。
◆第140回労働政策審議会安全衛生分科会(資料)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21573.html
◆事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案概要
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000841257.pdf
◆事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部改正に係る周知内容等について
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000841258.pdf