給与明細書をWEBによる電子化(ペーパーレス)するメリットと実務上の注意点

 

労務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を行う際に比較的実施しやすいのが給与、賞与、源泉徴収票の電子化です。
クラウドシステム上で管理できるので、WEB明細書と呼ぶこともあります。

導入時の手続き、メリット・デメリット、コスト、実務上の注意点などについて、解説します。

 

事前手続き

まず、電子化するにあたって、必要な手続きです。

電子交付に関する承諾を得る場合の記載事項や書式等について、法令上定めはありませんが、次のような事項を従業員に対して電磁的方法により示し、「電子交付について承諾する旨、承諾日、受給者等の氏名」などを入力してもらうことによって、承諾を得ることが考えられます。

1 電子交付する書類の名称(給与所得の源泉徴収票、給与等の支払明細書の別等)
2 電磁的方法の種類やその具体的な方法
電子メールにより交付する場合・・・電子メールにより送信する旨、電子メールのアドレス等
社内LAN・WANやインターネット等を利用して閲覧に供する場合・・・給与所得の源泉徴収票等データを閲覧に供する旨、給与所得の源泉徴収票等データを掲載するホームページアドレスや閲覧方法等
磁気媒体等により交付する場合・・・交付する媒体の種類等
3 受信者ファイルへの記録方法(XML形式、PDF形式、暗号化して受信者ファイルに記録する旨及びその復号化方法等)
4 交付予定日(毎年○月○日までに交付、給与支給日に交付等)
5 交付開始日
6 その他参考となる事項

 

◆給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/denshikofu-qa/question.htm

◆1.基本的な事項 2.事前承諾 3.交付
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/denshikofu-qa/answer.htm

 

実際にWEB明細システムの中で同意書を取れるように対応されている場合もあります。

 

事前の承諾に関しましては、2023年度税制改正

「給与所得の源泉徴収票」及び「給与等の支払明細書」については、会社が従業員から電子交付の承諾を得ようとする際に、「会社が定める期限までに承諾に係る回答がない時は承諾があったものとみなす」旨の通知をあらかじめ従業員に行い、その期限までに従業員からの回答がなかった場合には、電子交付の承諾があったものとみなされることとなり、会社としては、導入しやすくなりました。

 

◆税制改正のあらまし 令和5年4月
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0023004-040.pdf

 

メリット・デメリットは?

主に下記の5つのメリットがあります。

①業務効率化

②紙、郵送代、保管コストの軽減

③修正が容易

④データをいつでもどこでも見ることができる

⑤紛失リスクの軽減

 

会社側のメリットが多いですが従業員も便利になります。

①会社の労務担当者としては、給与確定後に給与等のデータをCSVでダウンロードし、明細システムにアップロードして、公開予約(例えば、支給日のAM8時に公開)すれば、作業完了です。
給与システムによっては、アップロードやダウンロードも不要なものもあります。

明細書を渡すために社内で従業員や上司を探して渡すようなことは不要となります。
また、印刷して、袋詰めするような作業もなくなります。

②紙で印刷しなくなるので、ペーパーレス化が図られ、印刷、郵送代、保管コストが軽減されます。

拠点等が多い会社では、仕分けも不要となり、鍵がかかるような場所に保管もすることからも解放されます。

③明細書印刷したり、配布したりしたあとに仮に給与計算などで計算間違いが発生した際も修正が容易で作業が軽減されます。

④クラウドシステムなら、場所や時間を問わず、見ることができるのは、会社・従業員にとって効率的になります。
また、データ検索も簡単なので、ビジネスで最も無駄な「探す」時間が短縮されます。

⑤大事な個人情報ですから紛失リスクは極力軽減できた方がよいでしょう。
よくある源泉徴収票を紛失した場合でも再発行などの手間はかかりません

 

次にデメリットとしてはどういったものがあるでしょうか。

①電子化を希望しない or 出来ない場合の対応

②明細書を上司から渡さなくなる

③コスト増

①例えば、製造業、小売、サービス業などの場合、必ずしも1人1台でパソコンを使用しないようなケースもあります。
共有パソコンやスマートフォンによる閲覧など自社での対応策の検討が必要な場合もあります。

②これは、どういうことかというと給与を渡す、頂くといった意識が希薄になるいうことです。
ただ、社長が従業員全員に現金を渡すようなケースでなければ、あまり考えなくてもよいかもしれません。

③システムとしては、複雑な構造でもなく、法改正の影響も受けにくいので、無料のシステムや給与計算システムに付帯したサービスもあります。
これを機に勤怠管理や労務管理のシステムも検討する会社もあります。

 

実務上の注意点

デメリットの①でもふれましたが「電子化を希望しない or 出来ない場合の対応」が重要です。

紙の明細書とWEB明細書の二重管理は、煩雑になるだけでなく、工数が今まで以上に増える可能性があります

「電子化を希望しない or 出来ない」例としましては、「会社で使用できるパソコンがない」、「スマートフォンを持っていない」、「明細書は紙がいい」などさまざまですが

・会社でペーパーレス化を推進している
・働き方改革による業務効率化のため
・共有パソコンで対応して頂く

など会社の方針等で説得する姿勢も重要だと考えています。

 

以上、WEB明細書を使用する手続き、メリット・デメリット、実務上の注意点について、解説しました。

WEB明細書の導入は、比較的実施しやすい施策と冒頭で記載しましたがこれができないと労務のDX(デジタルトランスフォーメーション)もなかなか進まないケースが多いです。

実施しやすい施策から取り組むことが効果的であると考えています。