「給与締日と支給日の期間が短い問題」の対処方法②

 

少し間が空いてしまいましたが前回は給与締日と支給日の期間が短いときの対処方法について、書きました。


参考
「給与締日と支給日の期間が短い問題」の対処方法①社会保険労務士事務所ファインネクサス

それでも期間内の対応を難しいときは、締め日もしくは、支給日を変更する方法も検討してみましょう。

今回は、給与締日、または、給与支給日を変更する際の注意点について、解説します。

 

給与締日から支給日までの妥当な期間は?

前回にも使用しました主な締め日、支給日、支払サイト(締日から支給日までの間隔)のパターンをみてみましょう。

それでは適切な支払サイトはどのくらいの期間が必要でしょうか。

前回、9月は月の後半に祝日が重なり、20日締め25日払い、15日締め25日払いは厳しいと書きましたが末締め翌月10日払いも年末年始やゴールデンウィークではタイトです。

1年を通じて、15日位の期間があれば、余裕を持って給与計算ができるでしょう。

かといって、20日以上は、初回の給与支給まで間が空き過ぎではないでしょうか。

 

締日・支給日を変更する前に

変更を検討する際に労働基準法上、賃金は、毎月1回以上払わなければならないことになっています。

また、従業員へ事前に連絡は必要です。通常の支払月より低額になる月が発生する可能性があることを伝えるためです。

さらに低額となる月については、従業員の希望に応じて、一時的な貸付等を検討する余地もあるでしょう。

 

締日・支給日を変更する手続き

はじめに就業規則の変更が必要です。

「賃金の締切り及び支払の時期」は就業規則の絶対的必要記載事項だからです。

手順は通常の就業規則の変更と同様ですが念のため、記載しますと下記のようになります。

1.就業規則を変更
2.労働者の過半数代表者(または労働組合)の意見を聞く
3.労働基準監督署に届出
4.変更後の就業規則を労働者に周知する

 

変更時の注意点①(離職票)

具体的な事務手続きの注意点となります。

締日変更後に退職者が発生した際には、離職票の書き方に注意が必要です。

下記は、20日締めから末日締めに変更した例ですが賃金支払対象期間、その基礎日数、賃金額は詳細に分けて、備考欄に賃金締切日の変更があった旨、記載します。

 

厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き」(第5章被保険者についての諸手続き)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000131698.html

 

変更時の注意点②(定時決定)

4~6月の間に給与締日・支払日が変更となった場合は、日本年金機構の疑義照会(下記リンク 整理番号1)や「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」が参考になります。
(疑義照会とは、法令等の解釈や取扱方法が不明確である場合に年金事務所等からの問い合わせといい、その主な回答について、ホームページにまとめています。)

◆疑義照会回答(厚生年金保険 適用 整理番号1 P44)
https://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/gigishokai.files/tekiyou.pdf

◆算定基礎届の記入・提出ガイドブック 令和4年度 算定基礎届(定時決定)におけるよくあるご質問と回答Q14(P26)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/santei.guide.book-r4nendo.pdf

Q14 給与の締め日が変更になり、変更月の支払基礎日数が通常の月よりも増加(減少)した場合、標準報酬月額の算定はどのように行いますか。

 


① 支払基礎日数が増加する場合
超過分の報酬を除外した上で、その他の月の報酬との平均額を算出し、準報酬月額を算定します。
例)給与締め日が 20 日から 25 日に変更された場合
締め日を変更した月のみ給与計算期間が前月 21 日~当月 25 日の給与を除外し、締め日変更後の給与制度で計算すべき期間(前月 26 日~当月 25 日)で算出された報酬をその月の報酬としたうえで、そのほかの月の報酬との平均額を算出します。

② 支払基礎日数が減少した場合
支払基礎日数が減少した場合であっても、支払基礎日数が 17 日以上であれば、通常と同様の方法により標準報酬月額を算定します。また、支払基礎日数が 17 日未満となった場合は、その月を除外したうえで報酬の平均額を算出し、標準報酬月額の算定を行います。

 

変更時の注意点③(年末調整)

年末調整の場合、支給日を翌月に変更するようなケースは特に注意が必要です。

例えば、20日締め末日払いを翌月5日払いに変更するような場合です。

国税庁のホームページには、下記のようにあります。

「年末調整の対象となる給与は、その年の1月1日から12月31日まで(年の中途で死亡により退職した人等については、その退職等の時まで)の間に支払うことが確定した給与です。」

支払の確定する日とは、就業規則等により定められている支給日を指します。

つまり、締め日は関係なく、支払日をみるため、上記のような例では、年末調整時に対象の支払日が11か月になってしまう月が出てきます。

そうすると

①行政サービス
②住宅等ローン

等に影響がある場合があります。

①は、具体的には、子ども手当には所得制限があるため、通常では、受給できない人が受給できるようになったり、受給できる人が受給できなくなったりする可能性があります。子ども手当は、一例ですが他にも市区町村によって、所得制限があるサービス等があるため、影響が見えにくいと言えます。

②は、住宅等を購入する場合は、金融機関から借り入れし、ローンを組むケースが多いでしょう。その際、購入者やその配偶者の年収を考慮して、ローン金額を決定します。年収の証明書は、源泉徴収票が使われることが多いので、通常より、ローンの金額が上下する可能性がでてきます。

上記では、支給日を翌月に変更する例を取り上げましたが締め日を変更する場合も影響することもあるでしょう。

 

まとめ

以上、2回にわたって、「給与締日と支給日の期間が短い問題」について、考えてみました。

会社・個人の資金繰り、会社の規模、手続きなど様々な影響がありますので、事前に考慮し、実務がうまくこなせるように検討してみてはいかがでしょうか。